はじめに
マエストロ ユーディ(イェフディ)・メニューインは国際的平和指導者シュリ・チンモイの良き友であった。二人が初めて会ったのは、七年前のニューヨークで、それ以後、頻繁に手紙のやり取りをしてきた。実はメニューイン卿が 3 月 12 日に他界するほんの数日前、シュリ・チンモイは同月 5 日付けの手紙を彼から受け取っている。この二人の男たちは、音楽への深い不動の愛と、世界平和への誓いを共有していた。
ユーディ・メニューイン:地球の涙の美・天国の魂の芳しさ
我が最愛なるマエストロ ユーディ・メニューイン
貴方の天国への旅わずか一週間前に御手紙を下さるとはなんと優しいお心遣い。私たちが世界で繰り広げる平和運動に対する貴方の祝福に満ちた勇気づけの言葉と力強い支援をこの先ずっと心の宝物にしてゆきます。天国は限りないよろこびと誇りをもって、貴方を迎えたにちがいありません。貴方の非常に貴重な地球音楽界への貢献をたたえて。
ハートいっぱいに咲く涙あふれる感謝の心を込めて。
シュリ・チンモイ
1999 年 3 月 13 日
略歴
マエストロ ユーディ・メニューインは 1916 年 4 月 22 日ニューヨークでロシア人の両親の下に生まれた。バイオリンの神童として、彼の繊細さと演奏の奥深さは世界を魅了した。七歳でオーケストラデビューを飾り、サンフランシスシンフォニーオーケストラで演奏した。その後、ニューヨーク、ベルリン、ロンドンでステージに立ち、間もなくレコーディングを始めた。アインシュタイン、トスカニーニ、バートック、エルガーそしてカザルスと、彼の時代の最も偉大で才能に恵まれた音楽家達に嬉々として受け入れられた。アインシュタインがあるコンサートで楽屋に押しかけ、「これで、天国に神がおられることがわかった!」と宣言したのはメニューインがわずか十三歳の時であった。
ヨーロッパがメニューイン卿の生活の基点となり、 1966 年英国より名誉爵位を授与された。 1970 年には名誉フランス国民となり、 1985 年には英国国民となった。
メニューイン卿は世界中を広範囲に渡りツアーで回り、人々は彼の東洋音楽と西洋音楽両方の伝統に対する愛情に非常に感嘆した。 1974 年に伝説のインド音楽家 ラヴィ・シャンカール(シタール)、アリ・アクバル・カーン(サロード)と幾つかレコーディングを行った。
1963 年、音楽を学ぶ学生のために ユーディ・メニューイン学校をイギリスの Stoke d’Abernon に設立。また、グシュタード(スイス)、バース、ウィンザーで毎年行われる音楽祭を始めた。
後年、指揮者としての仕事に没頭し、王立交響楽団オーケストラ、英国弦楽オーケストラ、アジア青少年オーケストラなど、世界最高クラスのオーケストラで指揮をした。また、何百という文化・チャリティー団体の活動にも関わった。
音楽への貢献を讃えられ、多くの勲章、賞を授与された。主なものに、国際平和と理解のためのネルー賞(インド)、イスラエル交響楽団オーケストラ 30 周年記念メダル、王立交響楽団協会金メダル、 Ordre des Arts et des Lettres (フランス)、ケネディーセンター勲章(アメリカ)がある。 1993 年イギリス女王によって、貴族の称号が授けられた。
音楽とバイオリン演奏に関する著書多数で、また、深い感動を呼ぶ自叙伝「果てしなき旅」(原題: Unfinished Journey )もある。
1999 年 3 月 12 日ベルリン没。ワルシャワシンフォニーオーケストラで指揮をとる予定であった。享年 82 歳。
ユーディ・メニューインとの対談
1992 年 2 月 3 日、ユーディ・メニューインはニューヨーク市の Rihga ホテルの自らのスイートに、シュリ・チンモイとその弟子数名を暖かく迎え入れた。一時間にわたる対談の間、二人は音楽と精神性について語り合い、シュリ・チンモイと弟子たちは、シュリ・チンモイがマエストロに敬意を表して作った曲数曲を披露した。以下はその対談の書き起こしである。
メニューイン氏 :これはもう最高にすばらしい機会に恵まれました。もう何年も貴方にお会いしたいと思ってきたんですから。一度ロングアイランドのどこかの大学に出かけたとき、貴方が導いておられる方たちの一人が、私たちを引き合わせようとしてくれたんだが、残念なことに実現しなかった。そうしたら、夕べ、また私のコンサートに同じ彼が現れた。今ここにも来ているのかな?
レイシンガー :はい!
メニューイン氏 :ああ、彼だ!この人が現れてね。だから私は言ったんだ。「よし、わかった。明日だね。」って。
シュリ・チンモイ :決してあきらめちゃだめだ、ってことですね!この十五年というもの、本当にお会いしたかった。そして今神が、私が長年 愛しんで(いつく)きた願いを叶えてくださった。
メニューイン氏 :いつも心配なんですが、私に会うのを楽しみにしていた方たちをがっかりさせてしまうんじゃないか、って。長すぎるぐらいの時間会うのを楽しみにしてくださって、それでこれだ―私は実にごく普通の人間ですよ。
シュリ・チンモイ :いや、とんでもない!全ては神のお選びになったタイミングで起こります。今この時が私たちの、神に定められた会うべき時なのです。
メニューイン氏 :ああ、そうですね。物事にはある定められた運命、因縁がある。ものによっては私がコントロールできる域を超えている。そうでしょう?偶然をまったく信じていない人たちもいる。私にはよくわからないが。宇宙のコンピューターに必ずしも支配されない物事もあるんじゃないのかな。それは、世界規模で私たちが考え、感じていることが生み出すものに左右される。
シュリ・チンモイ :貴方はヨガを長年やってこられた。ご存知のように、ヨガとは科学技術の範囲を超えるものです。ヨガとは宇宙の意識とひとつになることで、マインドの範疇をはるかに超えます。マインドの受容力はかなり限られていますが、貴方もお持ちの、そして貴方自身がそうであるハートの受容力には限りがありません。皆、貴方を愛し、貴方の良さを評価し、感嘆しています。宇宙のハート、宇宙のいのち、そして宇宙の意識との、貴方の分かちがたいワンネスがあるからです。
メニューイン氏 :ただ与えられたものに従ってきただけです。私が初めてインドに行った時、それまで知っていた世界とのあまりの違いに圧倒されました。にもかかわらず、以前からずっと東洋に行きたかった。大体西洋に行った人たちは新しい物を見つけるためだったでしょう。
シュリ・チンモイ :大体において、物質的豊かさのために我々は西洋に来ます。東洋に行くのは、内面的英知を得るためです。
メニューイン氏 :ええ、本当ですね。そして、わかったのは、実に様々な思考の側面について考慮する必要があるということです。(例えば)私は善と悪についてはいつも納得がいかなかった。西洋ではこの二つを切り離そうとして、悪を監獄に入れる。自分たちの周りに完璧な善を創り上げられると思い込んでいる。子供っぽいナンセンスだ。
シュリ・チンモイ :インド哲学では、悪は無知の一部であるとします。悪とは単に光がよりすくない状態のことです。あふれんばかりの限りない光もあれば、それほど明るくない光もあります。この、あまり明るくない、ほんの少ししかない光を無限の光と比べるとき、前者を悪というのです。
メニューイン氏 :ええ。でも、私たちが人間である限り、純粋な思考を持っていない限り、そして生きていかなきゃならない限り、善と悪はもつれ合っているものだと思いませんか。
シュリ・チンモイ :今のところ、その二つは一枚のコインの裏表のようなものです。けれども私たちは祈りと瞑想をたよりに、いつか無知そのものが光に変わる日が来ると願っているのです。魂を込めた祈りと瞑想のおかげで、この無知の夜が、英知のよろこびに変わる日が来るのです。
メニューイン氏 :仏教の読経 で、いろいろすばらしいものがありますよね。よりよい世界に属するための最も重要な行いを読経だとしている仏教の一派が日本にあるんです。これはとても大事なことだと思います。
シュリ・チンモイ :もしよろしければ、代表的な仏教のマントラの一つをまず最初に唱えたい (chant) と思いますが。お釈迦様の信徒たちの chant で、「 Buddham saranam gacchami. Dhammam saranam gacchami. Sangham saranam gacchami. 」です。もし許していただけるなら、弟子たちが祈りに満ちたこのマントラを唱えることから始めさせていただきたい。
メニューイン氏 :すてきだ!ぜひお願いします!
シュリ・チンモイ :私も日本へは何度か行きましたが、鎌倉の、あのとてつもなく力に満ちた大仏の前で chant しましたよ。
メニューイン氏 :音楽は私たちのいのちの一部で、音楽を聴き、演奏することによって、多大なことが学べると信じています。
シュリ・チンモイ :私にとって音楽とは、私たち宇宙の存在の息吹そのものです。私たちの体内にハートが宿り、ハートの内に息吹が宿ります。
メニューイン氏 :音楽は形のあるものとないものが出会う点、だと感じています。それは耳から直接体内に入り、私たちは宇宙全体の振動をすぐに受けとるのです。音楽は時間の中で芸術品を創り上げる技なのです。だって、一篇の音楽は生命のひとかけらであり、生命の広がりなんですから。その音楽を生きるんです。自分を生きるのではなく、その音楽を生きるのです。
シュリ・チンモイ : 有限のものが無限のものに広がっていくのですね。音楽が無限の中に広がっていくとき、その息吹が宇宙のいのちに入り込みます。
メニューイン氏 :ええ、その通りです。もちろん、 chant においては特にそうです。西洋では音楽は戯曲や詩、小説のようにある一定の構成をもってきました。インド音楽の何に感嘆したかというと、その文明やガンジス川と同じように、始まりも終わりもないことです。
シュリ・チンモイ :永遠の流れです。
(ここで、シンガーたちが Buddham saranam gacchami を歌う。)
メニューイン氏 :美しい!その長い長い調べと、音から音へ移るときの瞑想的な音色がなんともいえない。この音色は、民族音楽に対して、宗教音楽に独特の音色だ。中世にあった、グレゴリオ聖歌の斉唱のようだ。リズムがほとんどなく、黙考と言葉のための音楽です。ここでは、歌詞がこの音楽の決め手なんですか。この言葉は神聖なものなんでしょう?
シュリ・チンモイ :この言葉 (chant) の意味は、「仏陀の下に、救いを求めて行きます。 Dharma(本質) へ救いを求めて行きます。宇宙の道理へ救いを求めて行きます。」です。
メニューイン氏 :ええ、これは私が夢見、瞑想する永遠の言葉だ。-いつまでもいつまでもいつまでも続く言葉ですね。聞くと何か平和で、すばらしい安らかさを感じる。アフリカ音楽にあるようなビートとは違う。これは私たちが認識することを迫る生命のまた別の部分です。私たちの鼓動だ。
シュリ・チンモイ :沈黙と音はいっしょになるんです。
メニューイン氏 :そうですね。けれど、やはりこの二つは別々でもある。一つは生命の鼓動、私たちの脈拍のリズムだ。つまり、私たちの振動そのもの。そしてもう一つは私たちが夢見るある形の献身と安らかさだ。けれど後者のためには、雰囲気が大事です。( NY の) 42 番街でこの歌を歌ったとしてもうまくいかないでしょう。だから人々は寺院 を建てるんです。その精神を宿す場所として寺院を建てるのです。そして寺院に入るときはちゃんとそういう気持ちになっている。あなた方はこの部屋を寺院に変えてしまった。美しいことです。
シュリ・チンモイ :夕べ、幸運なことに貴方にお会いできると分かった時、すぐに貴方に敬意を表して魂を込めた歌を作りたいと閃きました。土壇場でのことでしたけれど。
メニューイン氏 :大変光栄です。
シュリ・チンモイ :そして今朝、もう一曲作りたいという思いになりました。残念なことに、これは弟子達の練習する時間がなかったので、私が自分で歌わないといけないんですが。
メニューイン氏 :本当に本当に優しいお方だ。とてもとても感動しています。そんなにしてくださるなんて、もったいない。私なんかのために。
シュリ・チンモイ :(他の音楽家たちとの対談の写真を見せながら)これがパブロ・カザルスです。お会いしたとき、彼は涙を流しながらこうおっしゃっていました。「私の人生も終わり近くになって、貴方は来てくださった!」そしてチェロを弾いてくださった。プエルトリコで、もうずっと何年も前のことです。
メニューイン氏 :ええ、彼のことはよく知っていました。非常に興味深いです。
シュリ・チンモイ :マンハッタンではレナード・バーンスタインに二度お会いしました。どちらの時も対談の始めには瞑想しました。
メニューイン氏 :レニー・バーンスタインの生き方は随分違ったものだった。
シュリ・チンモイ :でも私たちと一緒のときはいつも瞑想を好んでいらっしゃいました。
メニューイン氏 :彼は天才だった。ずばぬけてすばらしい男だった。けれど内側では引き裂かれていた。
( シュリ・チンモイはズービン・メータ、クルト・マズア、ラヴィ・シャンカール、アリ・アクバル・カーンとの対談の様子の写真を見せる。そしてメニューイン氏について歌った曲を進呈する。)
シュリ・チンモイ :これが、弟子たちが歌う曲です。
メニューイン氏 :こうしてみると、印刷された楽譜と実際に歌うこととの間には大きな隔たりがあるというのに気づきますね。
シュリ・チンモイ :今から歌います。
(シンガー達が歌う。)
メニューイン氏 :ありがとう。この歌は暗譜したんですか。すばらしい。楽譜を見るっていうのはひどい習慣です。楽譜なんて忘れてしまったほうがいい。空で歌えるなんてすばらしいですよ。( シュリ・チンモイに向かって) 貴方が教えられたんですか。
ランジャナ・ゴーシュ : はい、個人的に教えてくださいました。いつも楽譜を使わないようにと強く言われます。
ボサート :夕べ教えてくださいました。
メニューイン氏 :どんな風にやられたんですか。あなたが曲を作られたの?
ボサート :いいえ、シュリ・チンモイが言葉を書かれ、それに曲をつけられます。小型のキーボードで、この曲を完成されたんです。
メニューイン氏 :そしてあなた方が歌う (chant) ?
ボサート :シュリ・チンモイが曲を教えてくださると私たちは西洋式の楽譜に書き起こして、それを習うんです。そして正に貴方がおっしゃられたように、楽譜を見ないように、と強くいわれます。楽譜を見ているときはマインドを使っているけれど、楽譜なしで歌うときはハートを使っているからです。ハートと魂で歌いなさい―こういう風に強く言われるんです。
メニューイン氏 :ええ、あなた方が一緒に歌う様には驚嘆します。-それに楽譜を見ていないっていうんだから。あなた方、だれも、一度も楽譜を見ていないんですか。
ボサート :まず楽譜を見て習ってから暗譜しました。
ダス :シュリ・チンモイは、御自分の思うように私たちが歌えるまで何度も何度も繰り返し練習させるんです。
メニューイン氏 :ええ、それはとても効果的ですよ。レパートリーも随分あるんでしょう?
シュリ・チンモイ :はい、文字通り、何百という曲を空で歌えます。私はベンガル語で 6000 曲ほど、英語でさらに 3000 曲作りました。これが今日日中に作った曲です。今朝弟子達は仕事があったので覚えることはできなかったんですが。
(シュリ・チンモイはメニューイン氏に敬意を表して作った二曲目の歌の歌詞を読み上げる。)
メニューイン氏 :こんな歌を作っていただくほどの価値は私にはありませんよ。
シュリ・チンモイ :歌ってもよろしいですか。
メニューイン氏 :これはひざまずいた方がいいな。
シュリ・チンモイ :(ハーモニウムの前に座る)それから、貴方の最も意味深い名言の二つにも曲をつけさせていただきました。(言葉を読み上げる)
メニューイン氏 :貴方のグループをどのように指導してらっしゃるんですか。
シュリ・チンモイ :私達はクイーンズのジャマイカに住んでおりまして、祈りと瞑想のために少なくとも週に二、三回は集まります。魂のこもった音楽は精神生活の一部です。魂を込めて歌うとき、神に祈っていると感じるのです。
メニューイン氏 :講演もされるんですか。それとも祈りと瞑想と歌うことだけですか?
シュリ・チンモイ :世界中大体主な大学で講演をしました。インド哲学と我々の精神生活についてです。私は幼少時代から祈り、瞑想してきました。
メニューイン氏 :そうでしょうね。わかります。
シュリ・チンモイ :インド哲学を徹底的に学びました。ベーダ、ウパニシャッド、バガバード・ギタなどすべての主な聖典をです。これらの教えと、私自身の内面的認識に基づいて、この二十八年間というもの、世界の様々な地域で魂の奉仕をしてまいりました。国連でもこの二十二年間奉仕しております。毎週火曜と金曜にそこで祈りと瞑想をします。祈りと瞑想に興味のある各国の代表、外交官、職員がやってきて参加します。
メニューイン氏 :その瞑想と歌、そしてすばらしい貴方の御話を通して、お弟子さん方は現代生活、そして世界で起こっていることに対しての姿勢を学ぶんですか。
シュリ・チンモイ :そうです。我々の道は放棄ではなく、受容の道です。世の中をありのままに受け入れ、祈りと瞑想を通じてより良いものに向上させるための奉仕、より良い意識をもつものにするための手助けができるといいと思っています。
メニューイン氏 :そうするための私が知っている唯一の方法、最善の方法は、自分自身を向上させることです。
シュリ・チンモイ :正にそうです。我々は皆同じ生命の樹に宿ります。葉もあれば、花もあれば、実もあります。けれど全て同じ生命の樹に属しているのです。魂を込めて祈り瞑想するとき、意識的に世界との分かちがたいワンネスを感じるのです。
メニューイン氏 :そしてそのためには圧力団体に属したり、敵を作るようなやり方で意見を述べるのは効果的でないと悟ってらっしゃるんですね、きっと。
シュリ・チンモイ :私達はただ兄弟愛を育もうとしているだけです。優越感や劣等感はいただけない。私達が求めるのは普遍性です。私は貴方に宿り、貴方は私に宿る。私達は一つなのです。常にワンネスの歌を共に歌います。分離性は信じていません。調和を信じています。
メニューイン氏 :それが一番だと思います。
( シュリ・チンモイが自らのハーモニウムの伴奏で歌う。)
メニューイン氏 :とても、とても美妙です。
シュリ・チンモイ :「私は決して現役を退かない」 これは貴方の最も力強いメッセージです。厚かましくも貴方のこの言葉に曲をつけたことをお許しください。
メニューイン氏 :言葉に曲をつけられる技が並大抵じゃありませんね。作曲するという行為はその主題に対しての瞑想で、必ずしも受身なことではない。
シュリ・チンモイ :主題について瞑想するとき、その意味を全て会得することができると感じます。その発話から最高の祝福に満ちたメッセージを引き出すことができるのです。
メニューイン氏 :ということは、おそらくは、もしそのご鍛錬がなかったら暴力的反応を誘うような状況下でも、貴方は心の平穏を保つことがおできになる、ということなんでしょうね。あなた方皆さん、悪に対して暴力的に反応したいという衝動は克服されているんですか。その落ち着きを失うことはあるのですか。
シュリ・チンモイ :ほんの時たま、一瞬の間だけ。でも身体的暴力に走ることはありません。ただ時折、人間として、弱さにさらされます。怒りや不安、嫉妬などの。けれど祈り、瞑想するので、こういう下位の性質や傾向は減っていっていると感じます。だから、貴方のように、我々もヨガを実践するのです。貴方もヨガが心の静けさを得るのにとてつもない助けとなることをご存知でしょう。
メニューイン氏 :これはとても並大抵でない鍛錬なのに違いないですね。周りの状況に対して普通の反応をしてしまうことを克服するというのは本当にすばらしいことです。けれど私は貴方を信じ、信頼し、また貴方に敬服しています。もし仮にこのご鍛錬にもかかわらず、時たまお怒りになることがあったとしても、貴方を千回でもお許ししますよ。自分を見ればね。私はそういう普通の反応に打ち勝つ鍛錬ができていない。時たまものすごく気が動転します。
シュリ・チンモイ :けれど心の奥ではそうではないでしょう。仮に貴方のお弟子さんの一人が良からぬことをした、としましょう。貴方はひどく怒っておられるけれど、心の奥は静かです。海の底のようなものです。海の底は静かで落ち着いているけれど、表面では波が立っています。
メニューイン氏 :この時点では、もし選べるのなら、私は表面にいることを選ぶな。
シュリ・チンモイ :それは貴方が物事をやりすすめたいからです。そのためには時々怒りを表す必要がある。お弟子さん達に対して、いつも優しく親切にばかり話していたら、うまくいかないかもしれない。けれど(そんなときでも)激しい怒りを表すことによって、一瞬のうちに目的とすることを達成できます。何かやり遂げないといけない時、貴方のお弟子さん達によりよい音楽家になってほしい時、時には怒りに頼るしかなくなります。
メニューイン氏 :うちの母がそうです。九十六歳ですけれど、自分の怒りをコントロールして、ちゃんとした効果があるように使っていました。けれどそれは完璧にコントロールされていて、内面では比較的落ち着いていました。でも、私はそうじゃない。周りの人の良さを引き出すためだけに怒っているなんてふりはできない。時に私は、ただ頭にきているから怒るのですよ。
シュリ・チンモイ :貴方は何かを成し遂げるために怒るのです。周りの人の人生を完璧にしてあげたい、その人を完璧にしてあげるためには怒りを見せるしかないとお思いになるんです。
シュリ・チンモイ :そうでなければ、貴方は元々物静かで慈愛に満ちた方です。貴方の人生そのものが慈愛に溢れている。怒りとは、貴方に入っていく何か外的なものです。よそ者がきて、ちょっとの間滞在していくんです。貴方はロシア系ですよね。私はインド出身です。何年か前、ロシアとインドのワンネスについてベンガル語で曲を作りました。歌ってもいいですか。直訳は、「ロシアとインド、ロシアとインド、並んで歩く、微笑みながら、微笑みながら。一つの心、前へ、上へ、内へ、一つに動く。最も早く発展するため、ワンネス・ハートの空を一緒に飛んでゆく。」
メニューイン氏 :ロシア人とインド人ほど違う人種も他にはいないでしょうけどね。
シュリ・チンモイ :けれど心の底では私達はひとつです。我々はあなた方を心から評価し、賛美します。あなた方もそう思ってくれています。表面的には私達は違って見えますが、内面ではワンネスがあるのでお互いをしっかり見つめています。
メニューイン氏 :ええ!そうですね!
(シュリ・チンモイが歌う。)
メニューイン氏: とても、とてもすてきな考えだ。
シュリ・チンモイ : 弟子達にもう一曲ベンガル語で歌わせていただけますか。この曲は、「わが主シュプリームよ、貴方を忘れさせないでください。」という意味です。
(シンガー達が “Bhulite diyona” を披露する。)
メニューイン氏 :すてきですね。
シュリ・チンモイ :これを差し上げたいんですが。貴方のために作った曲です。
(曲を記した印刷された楽譜を進呈する。)
メニューイン氏 :ご親切に。本当に、夕べは一睡もしていらっしゃらないんじゃないですか!皆さんが来て歌ってくださって、皆さんのハートの一部をくださって、本当に感激しています。感謝の気持ちでいっぱいです。
シュリ・チンモイ :皆でワンネスのハートで世界を高く持ち上げるという試みをしています。これは、我々の “Lifting Up the World with a Oneness-Heart” 賞です。(メダルを進呈する。)
メニューイン氏 :どうもありがとうございます。本当にうれしい。とてもとても優しいお心遣いです。ありがとう。
(ミカエリアンが、メニューイン氏の肖像画をアイシングにエッチングしたケーキを進呈する。)
メニューイン氏 :ああ、こんなものまで!皆さんで召し上がってくださらないと。
ミカエリアン :肖像画は厚紙の上にのっているので、後にとっておくことができますから。
ホニグ :これは、 シュリ・チンモイがキーボードや他の楽器を演奏したのを録音したものです。たくさんの楽器を演奏なさるんですが、キーボードの演奏の仕方には独特の力強さがあるんです。
メニューイン氏 :本当にご親切に。( シュリ・チンモイにむかって) ありがとう。一生わすれません。本当に優しいお方だ。何年も何年も待った末、やっとお会いできた。
シュリ・チンモイ :内面的にも外面的にも私達はひとつなのだ、と感じています。考え、行動、人類への無私無欲の奉仕、という点で、私達はひとつです。
メニューイン氏 :私達は違う世界から来たけれど、何か私達をつないでいるものがある。ありがとう、本当にどうもありがとう。貴方にも感謝しているし、貴方のお弟子さん方にも感謝しています。こんな謙遜の心と恍惚の表情で歌ってくれる彼女達を見れば、貴方が何を彼女らに与えてきたのかわかりますよ。
シュリ・チンモイ : ( ボサートを紹介しつつ ) 彼女がリーダーです。みんなを指導し率いているんです。
メニューイン氏 :ええ、ええ、わかります。
シュリ・チンモイ :皆で集合写真を撮らせていただいてもいいですか。
メニューイン氏 :ええ、ええ。
シュリ・チンモイ :今朝読んだのですが、逆立ちのポーズ が 15 分間できるそうですね。私はだめだ。一分もできやしません!ネルー首相は、自分の方がうまくできることを貴方に見せようとしたとか。貴方のほうが断然にうまくお出来になることがお分かりにならなかったのかもしれませんね。
メニューイン氏 :先生についていたときほどはうまくできなくなりました。今はずっと年をとってしまったが、でもまだ逆立ちのポーズはやります。
メニューイン氏 : シュリ・チンモイ、貴方にはとても感謝しています。来てくださってありがとう。またこれからも何度もお会いできるといい。インドには時々帰られるんですか。
シュリ・チンモイ : たまに、何日間か。私はインド南部の精神生活のためのコミュニティーで育ちました。そこで 20 年間、ヨガと瞑想を学んですごしました。
メニューイン氏 :ニューヨークシティーの真ん中であなた方のような方たちに出会うとはすごいですよ。狂った文明の中にいると時には感じられるんじゃありませんか。
シュリ・チンモイ :自分のものとして、受け入れました。先ほども言いましたように、ニューヨークの喧騒に奉仕することが自分の本分だと思っております。
メニューイン氏 :この文明は貴方にとても感謝しているに違いないです。文明自身はそれに気付いていないかもしれないけれど。ありがとうございました。
シュリ・チンモイ :またお会いしましょう。ありがとう。
歌
ユーディ・メニューイン - 魂の微笑み・ハートの叫び
ユーディ・メニューイン、ユーディ・メニューイン、メニューイン!
稀にみる魂の微笑み 真のハートの叫び
天国と地球のよろこびの泉
音楽界の熱望の頂の高みよ
果てしなき旅
天国の兄弟、地球の師ユーディ・メニューイン!
「果てしなき旅」の究極のゴール 内なるバイオリン
貴方の魂は神の完璧な夢の美しさ
貴方のハートは神の芳しきよろこびの真実
私は決して現役を退かない
ユーディ・メニューイン
理想郷を創るために私は人生を費やした
ユーディ・メニューイン
言葉は嘘をつけるが、音楽は嘘をつけない。
ユーディ・メニューイン
音楽のない人間社会は今まで存在したことがない
ユーディ・メニューイン
唯一の真の自由は他人を助けることにある
ユーディ・メニューイン
芸術は文明の洗練の度を反映する
ユーディ・メニューイン
(死後の埋葬に関する希望を述べて)
地球に戻る、木の下か川の中へ。これが私の選ぶやり方だ
ユーディ・メニューイン
私の来た道は、霊感によって導かれた師によって示された、霊感に満ちた道だった。
ユーディ・メニューイン
( ユーディ・メニューイン十三歳の時の演奏を聴いてアインシュタインが言った言葉)
「これで、天国に神がおられることがわかった!」
アルバート・アインシュタイン
ユーディ・メニューインからシュリ・チンモイへの書簡
(日付と本文のみの訳)
1992 年 8 月 19 日
良きお方 シュリ・チンモイの61歳の御誕生日に寄せて、他の大勢の方達がそうされているように、心からの尊敬と信頼と敬愛を送ります。
1994 年 1 月 13 日
すばらしい支持者に恵まれた貴方のような方がこんなにたくさんの絵画とスケッチを世に遺すことができるというのはうれしいことです。
我々はカメラに依存するあまり、古代の旅人たちがいかに自分が受けた印象をノートに形と音で記したのかを忘れてしまったのです。
人間に羽を与え、私達が見習おうとしてきた鳥のところに運んでくれる力を持つこのすばらしい偉業にお祝いを申し上げます。
1995 年 7 月 29 日
皆さんと共に、 シュリ・チンモイの13000曲目の完成、お祝いを申し上げます。もし人々が自分の息(=生命)を話したり、ましてや叫んだりするよりも歌うことに使うなら、世界はもっと幸福な場所になるでしょうに。
ご親切な献呈の辞付きの御著書を送ってくださりありがとうございます。今年五十回目のコンサート記念、そして国連創立記念の 12 月 8 日のご成功を祈っております。
貴方がいつまでも人類の兄弟達を導く存在であり続けますように。
1996 年 4 月 11 日
貴方の美しいメッセージと、「五百万の鳥」についての霊感溢れる御著書に感動しています。
展覧会に是非行きたかったのですが、グスタードでの家族の集まりのために明日月曜の夜明けと共に発たなければならなく、うかがうことができません。
まばゆいばかりに美しい御花ですね。リンカーンコンサートセンターで、貴方のお弟子スジャトリ・レイシンガーさんとお会いできるのを楽しみにしております。
1996 年 7 月 16 日
貴方の御手紙、心を込めて美しく額に入れられた古い新聞の切り抜きのプレゼント、そして スジャトリ・レイシンガーさんからの御手紙に圧倒され、感動しています。
貴方のテレビ番組が大きな反響を呼ぶであろうことは私の喜びです。貴方が呼び起こす偉大なる芸術家が、聞く耳を持ち、見る目を持った人々全てにハーモニーのメッセージを運ぶことを願っております。
音楽、そして他の芸術を通して貴方が伝えられている高い目的に同意せずにはいられません。
1996 年 8 月 6 日
1996 年 7 月 13 日付けの心優しい御手紙に感激しています。そしていつの日か、貴方の私に対する高い評価にほんの少しでも見合う人間になれるといいと思っております。
賛辞
「ユーディ・メニューインはすばらしい方、とても成熟した魂です。内面の豊かさ、精神的豊かさを具現化している。ハートの純粋さとマインドの静けさで溢れている。パブロ・カザルスと同じように、彼は非常に稀な魂です。美と芳香で溢れるバラ、真のバラの花です。」
シュリ・チンモイ
( 1992 年 2 月 3 日、マエストロとの対談の後で)
私は不変、永遠
私は無限
有限の中で
有限の形をまとい
そして宇宙の劇で
いのちのバイオリンを奏でている